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<か>家業
 「家」制度の下で、その家が代々担ってきた職業のこと。
 江戸時代、士農工商と呼ばれる身分制度の下で、いずれの身分においても支配の端末に「家」が位置付けられ、家長が家族(使用人を含む)に対し支配権を有していた。旧民法で規定された戸長権はそれを引き継いだものである。
 米経済の時代、農民から年貢をとることが生命線であったので、居住地の移動や職業の変更は身分との関係もあって、許されなかった。幕末近くになるほど、新規の仕事が専門職化して身分にかかわりなく重用されることが多くなり、農民から兵士を募り戦力を確保したのはその顕著な例である。
 明治維新を経て中央集権体制が構築される過程で、欧米の個人主義はわが国になじまないとして、天皇への忠誠を柱に国民を統合する策がとられ、「家」が支配の端末として温存された。したがって、長男は「家」存続のために相続にあたって優遇されるのと引き換えに、職業選択の自由を奪われる形となり、次男以下が「立身出世」の時流に乗りやすい位置に置かれた。
 戦後、現行民法は「家」制度をとらず、戸長権を廃し、兄弟間にも男女間にも差別を認めない、個人主義を原則としている。したがって職業についても、個人の意志に反してこれを強制することはできなくなった。
 金光教祖金光大神は、家業をつとめ世の中に貢献することを修行だと教えている。天職という表現の通り、全体で理想の世を実現していく流れの中に身を置いて、その一端を担うという意味をいずれの職業にも見出していきたい。家業として受け継ぐよりも、天職として世のお役に立つことが、より意識されるべきであろう。
 ついでながら、宗教もかつては「家」の宗教として代々受け継がれるべきものの一つとされてきたが、個人の救済を目指す宗教であれば、むしろ「家」の宗教と見なされることは抗議してしかるべきであった。「家」制度の撤廃を不利益と考えずに、個人救済のためのプラスとして、ここから新たな「いのちのネットワーク」形成を実現する使命を果たしていかなくてはならない。
世襲

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